荒田医院、群馬県太田市、内科、小児科、皮膚科、糖尿病・甲状腺外来荒木医院

甲状腺外来

目次

甲状腺外来の診療

甲状腺外来は、午後受付は16:30まで。木曜は休診です。
 
甲状腺はのどぼとけの下にある臓器で、蝶々のような形をしています。甲状腺ホルモンを分泌し、体の新陳代謝を調整しています。
甲状腺の病気は「ホルモンの分泌異常」と「腫瘍」の2つに主に分類され、女性に多くみられます。甲状腺疾患の患者数は500~700万人と推定されていますが、未治療のかたが多くいるといわれています。症状が多彩のため、甲状腺疾患と診断・認識されていないことが理由と考えられています。下記のような症状が気になるかたは、お気軽にご相談ください。

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甲状腺ホルモンの分泌異常

[機能亢進による症状]
体重減少、暑がり、微熱、動悸、下痢、手のふるえ、不眠、イライラ、眼球の突出
 
[機能低下による症状]
体重増加、寒がり、低体温、便秘、無気力、記憶力低下
 
[機能亢進・低下 両方に共通する症状]
甲状腺の腫れ、倦怠感・疲労感、むくみ、髪の毛が抜ける、月経異常・不妊(女性)
 
甲状腺機能亢進を来たす疾患には

・バセドウ病

・無痛性甲状腺炎

・亜急性甲状腺炎

・プランマー病

・妊娠(一過性のもの)

などがあります。

 

甲状腺機能低下を来たす疾患には

・橋本病(慢性甲状腺炎)

・薬剤の副作用

・放射線治療後

・下垂体疾患(脳の病気)

・先天性(生まれつき)

などがあります。

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甲状腺腫瘍

腫瘍の大きさにもよりますが、「頸の腫れ」以外には症状のないことが殆どです。
健康診断やCT検査などで偶然発見される場合も多々あります。
超音波や血液検査を行い、穿刺細胞診(頸に針を刺して、甲状腺細胞を採取する検査です)が必要と判断した場合には、近隣の医療機関へ紹介しています。
 
超音波検査
ベッドに仰向けに寝ていただき、頸にゼリーを塗って、超音波の出る機械を当てて行う検査です。検査は5~10分ほどで終わり、痛みや放射線被ばくの心配がないため妊娠中などでも安心して受けられます。
服にゼリーが付いてしまうことがありますので、出来れば首周りがあいた服装で来院して頂けるようお願い致します。
 
※最近の超音波機器には「エラストグラフィー」という機能があり、組織の「硬さ」を判別することができます。一般的に腺腫(良性腫瘍)は柔らかく、癌(悪性腫瘍)は硬いという特徴があります。エラストグラフィーは診断の補助になり(良性/悪性を確定できるものではありません)、下記のような場合で有用と考えられます。
・血液をさらさらにする薬を内服中で、細胞診を行うことが難しい方
・細胞診を行うことに不安や抵抗がある方
・細胞診を行ったが、結果がグレーゾーンであった方(濾胞性腫瘍といわれる腫瘍は、細胞診でも良性/悪性の鑑別が非常に難しいとされます)
 
当院では2023年夏より、エラストグラフィー機能も搭載した新型の超音波診断装置を導入しております。

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検査値の見方

甲状腺診療でよく測定される検査項目の見方についてです。
 
甲状腺ホルモン:Free T3(FT3)、Free T4(FT4)
甲状腺で合成・分泌されるホルモンで、体の発達や新陳代謝に関連します。
 
甲状腺刺激ホルモン:TSH
脳の下垂体から分泌され、体内の甲状腺ホルモンが一定になるように調節する、司令塔の働きをしています。甲状腺機能を反映する最も鋭敏なマーカーです。血液中の甲状腺ホルモンが低下するとTSHは上昇し、甲状腺ホルモンが過剰になるとTSHは低下します。甲状腺機能異常の疾患では、基本的にFT3・FT4とTSHは逆の動きをします(下垂体腫瘍や受容体異常など、例外の疾患もあります)。
 
抗TSH受容体抗体(TRAb)
未治療バセドウ病のかたではほぼ100%陽性になります。無痛性甲状腺炎など、他の疾患でも弱陽性になることがあります。
 
抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)
橋本病(慢性甲状腺炎)で陽性となりますが、バセドウ病や健常者でも陽性になることがあります(特に成人女性では陽性率が約15%といわれています)。
 
サイログロブリン(Tg)
甲状腺細胞で作られる蛋白で、甲状腺癌の腫瘍マーカーとして有用です。他に破壊性甲状腺炎(無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎)でも上昇します。抗サイログロブリン抗体が陽性のかたでは、低く測定されるため解釈に注意が必要です。

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バセドウ病

芸能人やスポーツ選手で、自らがバセドウ病であることを公表している人もいるので、病名を聞いたことがあるかたも多いかもしれません。抗TSH受容体抗体(TRAb)という自己抗体によって甲状腺が刺激されて、ホルモンが過剰に分泌される疾患です(※甲状腺機能が正常で、眼症状のみのEuthyroid Graves diseaseという病態もあります)。甲状腺ホルモンが高くなる疾患の中で、バセドウ病は約70%を占め、原因として最多です。
 
有病率は1000人に5人程度、男女比はおよそ1:5で女性に多くみられます。
 
【症状】
甲状腺ホルモンが過剰となり、新陳代謝が活発になります。甲状腺腫大、頻脈、眼球突出が主な3徴です。「一般的な病気」では、食欲が低下して体重が減ることが多いと思いますが、バセドウ病では食欲が増して、食事を十分に摂取しているにも関わらず体重減少をきたします。他にも疲れやすい、イライラ、手の震え、暑がり(発汗)、下痢、生理不順などの症状を認めることがあります。
 
【検査】
TSH受容体抗体(TRAb)が、ほぼ100%陽性になります。しかし、甲状腺ホルモンが高くなる他の疾患(無痛性甲状腺炎など)でもTRAbは陽性になることがあるので、
・FT3/FT4比(バセドウ病ではFT3が優位に上昇します)
・甲状腺内の血流(バセドウ病では’火焔状‘と表現される、血流増加が特徴です)
・甲状腺動脈の血流速度(超音波検査で計測します。バセドウ病では亢進します)
など、他の検査所見も併せて総合的に診断します。
 
【治療】
アイソトープ②手術③内服薬の3種類の治療法がありますが、まずは内服薬で治療を開始するケースが殆どです。
・内服薬で副作用が起きた
・内服薬ではホルモンのコントロールがつかない、寛解の目処が立たない
・甲状腺癌を合併している
などの場合では、内服以外の治療法を検討します。
 
各治療法の長所・短所を以下のとおりです。
①アイソトープ
放射線ヨウ素を内服して、甲状腺細胞を破壊する治療法です。日本では実施可能な施設が限られるため実施件数もそれほど多くはありませんが、海外では第一選択の治療法とされる地域もあります。
[長所]
外来で実施可能。
甲状腺腫の縮小が期待できる。
[短所]
18歳以下、妊婦/授乳中/6ヶ月以内に妊娠する可能性のある方は実施不可。
眼症(眼球突出など)が悪化することがある。
実施可能な施設が限られる。
甲状腺ホルモンが下がるまでに数ヶ月かかることがある。
治療後に永続性の甲状腺機能低下となり、ホルモン補充が必要となることが多い。
 
②手術
甲状腺癌を合併しているケースでは第一選択の治療法です。以前は甲状腺の一部を残す亜全摘術が主流でしたが、再発のリスクがあることから、最近では全摘術が標準的となっています。
[長所]
甲状腺を全摘出することで、速やかに甲状腺ホルモンが低下する。
[短所]
約1〜2週間の入院が必要で、頸に手術痕が残る。
手術の合併症として出血や声帯麻痺が起こりうる。
術後に永続性の甲状腺機能低下となり、ホルモン補充が一生必要となる。
(副甲状腺機能も低下し、ビタミンD製剤の補充も必要になることがある)。
 
③内服薬
[長所]
外来で簡便に実施可能。
[短所]
副作用(無顆粒球症、肝障害、関節痛、痒み、血管炎など)が起こることがある。
長期間(数年~)の内服が必要であり、内服を中止した後の再発率も高い
 
内服薬には
(ⅰ)チアマゾール(メルカゾール®)
(ⅱ)プロピルチオウラシル(プロパジール®、チウラジール®)
(ⅲ)無機ヨウ素(ヨウ化カリウム丸®) の3種類があります。
効果や副作用等の観点から通常はチアマゾールを使用しますが、近い将来 妊娠予定、もしくは妊娠初期のかたではプロピルチオウラシルを使用します。
無機ヨウ素は即効性があり、副作用もほぼないのですが、長期間使用していると薬が効かなくなってきます(エスケープ現象といいます)。そのため無機ヨウ素を使用するのは、以下のようなケースに限られます。
・重症のバセドウ病で甲状腺機能改善を急ぐとき
・バセドウ病の治療初期にチアマゾールと短期間併用するとき(そうすることでチアマゾールの錠数を抑え、後述する副作用の頻度を減らすことができます)
・チアマゾール/プロピルチオウラシルが副作用で使用できなくなり、他の治療法(アイソトープや手術)に移行するまでの一時的な甲状腺機能コントロール。
 
非常に重要:抗甲状腺薬の副作用について】
チアマゾール・プロピルチオウラシルを服用する上で最も注意が必要な副作用が、「無顆粒球症」と「重篤な肝障害」です。どちらも発症確率は0.1〜0.5%程度の非常に稀な副作用ですが、起きると命に関わる危険な状態になることもあります。無顆粒球症とは白血球の成分である顆粒球が著明に減少し、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなり、重症化してしまう状態です。これらの副作用は内服開始して最初の3ヶ月以内で特に多く発症しますので、この期間は2週間毎に血液検査を行います。また、患者さんも発熱や喉の痛みなどの感染兆候があれば、「ただの風邪」と自己判断せずに必ず医療機関で診察・検査を受けるようにしましょう。
また、薬を飲み始めて数年以上経過してから「ANCA関連血管炎」と呼ばれる副作用を発症することもあります。腎臓、肺、皮膚、関節など全身の様々な臓器に炎症を来たす疾患です。こちらも稀な副作用ではありますが、気になる症状があれば担当医師にご相談ください。

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無痛性甲状腺炎

甲状腺ホルモンが高値をきたす疾患の中で約20〜25%程度を占め、バセドウ病に次いで2番目に多い疾患です。甲状腺に炎症が起き、そこからホルモンが漏れ出て甲状腺ホルモンが高くなるのですが、名前のとおり「無痛性」なので痛みはありません。ホルモン高値による動悸、イライラ、下痢などの症状は、バセドウ病と比較すると軽いことが多いです。また、経過中に一過性甲状腺機能低下を認めることもあります。
 
元々 橋本病(慢性甲状腺炎)の持病のある方が、妊娠・出産・ストレスなどを契機に発症することが多いのですが、橋本病ではない方でも起こりえます。
 
【検査】
治療方法が全く異なるので、バセドウ病との鑑別が非常に重要です。
バセドウ病の自己抗体であるTRAbの有無(無痛性甲状腺炎では基本的に陰性ですが、弱陽性になることがあります)や、橋本病の自己抗体であるTgAb・TPOAbの有無、超音波所見などと併せて総合的に判断します。判断が難しいときには、ヨード(又はテクネシウム)シンチグラフィという検査で、甲状腺への薬剤の集積をみることで鑑別します。
 
【治療】
無痛性甲状腺炎には特別な治療法はなく、炎症がひいて甲状腺ホルモンが低下するのを待ちます。何もしなくても、1~2ヶ月前後で自然に治ります。症状が強いかたでは、β遮断薬とよばれる脈拍を落ち着かせる薬を使うこともあります。
 
また、甲状腺中毒症状後に一時的に甲状腺機能低下を来たすこともありますが、殆どのかたは自然に回復します。しかし、約15%程度のかたでは機能低下が永続的に続いてしまい、ホルモン補充が必要となります。
 
無痛性甲状腺炎は、一度治っても繰り返し起こることがあるため、注意が必要です。

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亜急性甲状腺炎

「甲状腺に炎症が起きてホルモンが漏れ出る」という点では無痛性甲状腺炎と同じですが、亜急性甲状腺炎は痛みを伴うという所が大きな違いです。「クリーピング現象」といって経過中に痛みが移動することがあります(例:最初は甲状腺の右側が痛かったが、数日後に痛みが左側へ移る)。
 
喉の痛みや発熱などの症状から、最初は「風邪」と判断されることもあります。しかし「痛みのわりに喉が赤くない・扁桃腺が腫れていない」、「喉というよりも、甲状腺部位(喉仏の下あたり)が腫れて痛い」、「手の震え、体重減少、動悸、下痢などの甲状腺中毒症状を伴う」、「風邪にしては症状が長引いていて、なかなか治らない」などがあれば、ただの風邪と思わずに亜急性甲状腺炎を考える必要があります。
 
原因ははっきりとは分かっていませんが、ウイルス感染などとの関連が示唆されています。30〜50歳代の女性に多くみられます。
 
【検査】
甲状腺ホルモンの高値、白血球・CRPなどの炎症反応を認めます。また、超音波検査で痛み・炎症部位に一致した低エコー域(画像に黒く映ります)を確認します。
 
【治療】
軽症ではNSAIDsと云われる消炎鎮痛剤でも治療可能ですが、中等症以上ではステロイドを使用します。ステロイドを内服すると数日で速やかに症状は改善しますが、そこで急激にステロイドを減量すると、あっという間に症状がぶり返してしまいます。そのため、1〜2週間毎に少しずつ減量していき、約2ヶ月かけて中止します。
 
ステロイドと聞くと、「副作用」のイメージがあるかもしれません。確かにステロイドには糖尿病、胃潰瘍、骨粗鬆症、免疫力低下、肥満・満月様顔貌、不眠などの様々な副作用がありますが、それらの多くは長期間使用する場合に問題になるものが殆どです。亜急性甲状腺炎の治療で使用されるステロイド量はそれほど多くなく、使用期間も短期間のため、副作用の心配は少ないです。外来でも定期的な血糖値の検査や、必要に応じて胃薬等の併用をしながら経過をみていきます。
 
無痛性甲状腺炎と違って、再発することはあまりありません。

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橋本病(慢性甲状腺炎)

1912年に日本の橋本 策先生が発見した病気です。自己抗体が陽性となり、甲状腺が慢性的な炎症を起こし、全体的に腫れぼったくなります(逆に甲状腺が萎縮していることもあります)。甲状腺機能低下により倦怠感、体重増加、浮腫、寒がり、便秘などの症状を認めることがあります。血液検査でコレステロール高値を認め、それが診断のきっかけになることもあります。
 
甲状腺機能低下症をきたす原因としては、橋本病が約90%を占めます。このように書くと「橋本病 = 甲状腺機能低下症」と思われるかもしれませんが、そうではありません。橋本病のかたの中で甲状腺機能低下をきたすのは30~40%程度で、むしろ機能正常のかたの方が多いのです。甲状腺の腫れが目立たず、機能も正常なかたでは自覚症状がほぼないため、橋本病と診断されていないかたが世の中には結構いらっしゃると考えられています。
 
男女比は1:15で、非常に女性に多い疾患です。
 
【検査】
自己抗体である抗サイログロブリン抗体(抗Tg抗体)や抗ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)、甲状腺ホルモンを測定します。超音波検査では、典型的な橋本病では甲状腺が全体的に腫れて低エコー(黒く映ることです)を認め、凸凹ゴツゴツした感じになります。
 
【治療・予後】
甲状腺機能低下を放置すると、動脈硬化・冠動脈疾患(心筋梗塞など)のリスクも高まるため、機能が低下しているかたにはチラーヂンS®というFT4製剤でホルモン補充を行います。補充量は個人差がありますが、成人では1.5~2μg/kgが平均的な量です(体重50kgのかたですと75~100μg/日)。チラーヂン®Sは空腹時に内服すると吸収が最も良いとされていますので、ホルモン値が安定しない場合には朝食前か寝る前に内服します。
また、昆布などの海藻類を必要以上に摂取したり、イソジンのうがい薬を連用したりすると、ヨードの過剰摂取から甲状腺機能低下を起こすことがありますので注意しましょう(一般的な食事の範囲での海藻摂取や、イソジンうがい薬も時々使用する程度であれば全く問題ありません)。
 
甲状腺機能が正常の橋本病のかたは現時点では治療不要ですが、将来甲状腺機能が低下してくることもありますので、経過は観察しなければなりません。
 
基本的には予後良好な疾患ですが、無痛性甲状腺炎や、稀に橋本病の急性増悪、悪性リンパ腫などを合併することがありますので、一時的な甲状腺機能亢進症状、甲状腺部位の急速な腫れ・痛みなどがあれば医療機関を受診するようにしましょう。

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